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大阪地方裁判所 昭和32年(行)38号 判決 1963年3月19日

原告 中西和夫

被告 大阪国税局長

訴訟代理人 松原直幹 外四名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

(原告)

被告が昭和三二年二月六日付で、原告の昭和二七年分所得税についてなした審査決定中、原告の所得金額一、七八八、九〇六円を越える部分を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。

(被告)

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は全国各地のビルデイング等の石工事を主とした事業を行い、その他墓石の建設、墓参用花の売買及び農業経営を行つているものであつて、昭和二七年九月一六日株式会社中西石材店(以下単に訴外中西石材店と称する。)設立以後は給与所得を有しているものである。

(二)  原告は、昭和二八年三月二六日亡中西藤市名義で、(原告は亡中西藤市の相続人である。)訴外豊能税務署長に対し、原告の昭和二七年分所得税の確定申告として、総所得金額を一、七八八、九〇六円(内訳、石工事による事業所得一、六三三、九〇六円、農業経営による事業所得五〇、〇〇〇円及び給与所得一〇五、〇〇〇円)と申告したところ、同署長は同月三一日右金額を四、〇八六、〇〇〇円(内訳、石工事による事業所得三、九三一、〇〇〇円、農業経営による事業所得及び給与所得の額はいずれも原告の申告額と同じ)と更正する旨の決定をしたので、原告は同年四月三〇日同署長に対し、再調査の請求をしたが、この請求は、同三〇年六月二三日に棄却された。そこで、原告はさらに被告に対し、同年七月一日審査の請求をしたところ、被告は同三二年二月六日に、同署長のした右再調査の請求棄却の決定及び右更正決定の一部を取り消し、原告の所得を二、一七九、五二七円(内訳、石工事による事業所得二、〇二四、五二七円、農業経営による事業所得及び給与所得の金額はいずれも原告の前記申告額と同じ)に変更する旨決定し、同日その旨原告に通知した。

(三)  しかしながら、原告の昭和二七年分の収支計算は、その後再検討した結果別表一の収支計算書中の原告主張金額欄に記載のとおりであり、結局同年分の原告の総所得金額は六一〇、八五五円である。原告はそのように申告すべきところ、計算違いから前記のようにこれを一、七八八、九〇六円と申告したものである。よつて、原告は自ら誤つて申告した右一、七八八、九〇六円の額はやむを得ないものとしてこれを認めるけれども、この額を越えてなされた被告の前記決定はその超過限度において、違法であるから、その取消を求める。

二、請求原因に対する被告の答弁

原告の請求原因(一)(二)は認めるが、(三)は否認する。

三、被告の主張

原告の昭和二七年分所得の収支計算は、別表一の収支計算書中の被告主張金額欄に記載のとおりであつて、結局原告の同年分の総所得金額は六、八一五、〇八〇円になる。右収支計算書で明らかなとおり、原告の給与所得及び農業経営による事業所得の金額については双方に争いはなく、従つて本件の争いは石工事による事業所得に関してのみであるから、以下右事業所得の計算において、争いのある部分についてのみ述べる。

(一)  収入金について。

原告の石工事収入金はすべて出来高払の特約が付された請負契約によつたものであり、その収入金の確定する時期は、注文者が出来高の検収をし、原告が工事代金請求権を行使することができるようになつた時と解すべきである。ところが、原告は、請求して現実に支払われた金額のみを収入金として計上し、しかもこれを根拠なく一律に前受金とみなしているから、正当ではない。被告の計上した原告の収入金の明細は別表二の収入金明細対比表の被告主張額欄記載のとおりであり、原告主張額と相違する点の中、被告主張額が原告主張額を超過する部分については、以下(1)乃至(6)において、被告主張額が原告主張額に満たない部分については同(7)乃至(15)において、叙説する。

(1) 千代田銀行大阪支店石工事関係

別表二のとおり同関係の収入金の原告主張額は、一三、一三二、〇〇〇円で、被告主張額は一七、五〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年一月一九日出来高検収により前年前受金を工事代金に振替えた分、六、〇〇〇、〇〇〇円、同日工事代金請求分三、〇〇〇、〇〇〇円、同年二月九日同二、〇〇〇、〇〇〇円、同年四月一八日同二、〇〇〇、〇〇〇円、同年五月二三日同一、五〇〇、〇〇〇円、同年六月一八日同一、五〇〇、〇〇〇円、同年七月二〇日同一、〇〇〇、〇〇〇円、同年八月二〇日同五〇〇、〇〇〇円)であり、原告は四、三六八、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原告において前受金六、〇〇〇、〇〇〇円中、三、六〇〇、〇〇〇円を昭和二七年度収入金として計上しなかつたこと、未完成工事二%分二六八、〇〇〇円を収入金から控除していること、昭和二七年八月二〇日原告請求分五〇〇、〇〇〇円を同年度収入金として計上しなかつたこと、以上三つの収入金の未計上から生じたものである。被告は、右三つの未計上額の合計四、三六八、〇〇〇円は昭和二七年度収入金として計上すべきことを主張し、以下各別にその理由を述べる。

(イ) 被告が前受金六、〇〇〇、〇〇〇円を全額昭和二七年度収入金として計上した理由

原告は、注文者である訴外株式会社大林組(以下単に訴外大林組と称する。)から昭和二六年中に前受金として六、〇〇〇、〇〇〇円を受け取つたのであるが右工事の第一回出来高の検収は昭和二七年一月一九日頃で検収による工事出来高は、九、二〇〇、〇〇〇円であつた。ところで、前受金については、その後における検収によつて出来高が確認され、その内金として工事収入金に振替えられた際に、その時点の属する年度における収入金として計上されるべきである。そして右前受金六、〇〇〇、〇〇〇円は昭和二七年一月二九日前記出来高九、二〇〇、〇〇〇円の内金として工事収入金に振替えられているから、右六、〇〇〇、〇〇〇円は全額昭和二七年度分の収入金として計上されるべきものである。

(ロ) 未完成工事二%分の二六八、〇〇〇円を収入金から控除することを不可とする理由

原告の石工事の収入金は出来高払の特約が附された請負契約によつたものであり、その収入金の確定する時期は、注文者である訴外大林組が出来高の検収をし、これによつて確認された出来高に応じて原告が工事代金の請求権を行使しうるようになつたときと解すべきことは、既に述べたとおりであるところ、昭和二七年八月二〇日現在における原告の千代田銀行大阪支店石工事関係の検収出来高は一七、六〇〇、〇〇〇円であつて、このうち少くとも原告の請求済みの分一七、五〇〇、〇〇〇円は全額右に所謂確定した収入金に該当するから、右金額のうちの二%分、二六八、〇〇〇円を未完成工事として差引くことは失当である。

(ハ) 昭和二七年八月二〇日原告請求分五〇〇、〇〇〇円を同年度収入金として計上した理由

原告は右五〇〇、〇〇〇円を訴外中西石材店設立後である昭和二七年九月三〇日に受け取つているのであるが、右金員は昭和二七年八月二〇日頃訴外大林組において検収をなし、出来高を五〇〇、〇〇〇円(同日の検収出来高累計一七、六〇〇、〇〇〇円から同年七月二〇日の同累計一七、一〇〇、〇〇〇円を控除した金額)とする旨の確認を受け、原告において同日請求をしている金額に該当する。従つて検収による出来高の確認を受けた右昭和二七年八月二〇日、右金員は原告の工事収入金として確定したわけであるから、原告の個人所得としてその収入金に計上すべきものである。

(2) 山蔭合同銀行石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は、一、六五〇、〇〇〇円で、被告主張額は三、〇〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年五月二二日出来高検収により前年六月二五日支払を受けた前受金を工事代金に振替えた分、一、五〇〇、〇〇〇円、同日工事代金請求分一、五〇〇、〇〇〇円)であり、原告は一、三五〇、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原告において、前受金一、五〇〇、〇〇〇円中、一、三五〇、〇〇〇円を昭和二七年度収入金として計上しなかつたことから生じたものである。被告は前受金一、五〇〇、〇〇〇円全額を昭和二七年度収入金として計上すべきことを主張し、以下その理由を述べる。

原告は注文者である訴外大林組から昭和二六年六月二五日頃前受金として一、五〇〇、〇〇〇円を受取つたのであるが、昭和二六年中における工事出来高は右注文者によつて検収確認されたものとしては零であつた。右工事の第一回出来高の検収は昭和二七年五月二二日頃であり、検収出来高は、三、〇四二、〇〇〇円であつた。そうして右前受金一、五〇〇、〇〇〇円は同日右出来高三、〇四二、〇〇〇円の内金として工事収入金に振替えられているから、右一、五〇〇、〇〇〇円は全額昭和二七年度分の収入金として、計上されるべきものである。

(3) 福井地方裁判所石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は一、八〇〇、〇〇〇円で、被告主張額は二、〇〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年八月二四日出来高検収により同年四月一八日支払を受けた前受金を工事代金に振替えた分、一、〇〇〇、〇〇〇円、同日工事代金請求分一、〇〇〇、〇〇〇円)であり、原告は二〇〇、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原告において未完成工事一〇%分二〇〇、〇〇〇円を収入金から控除していることから生じたものである。被告は、右二〇〇、〇〇〇円を収入金から控除することを不可と主張し、以下その理由を述べる。

昭和二七年八月二四日における原告の同関係の検収出来高は、二、一〇九、四二一円九〇銭であるところ、原告の同日付工事代金請求分一、〇〇〇、〇〇〇円及び同年四月三〇日支払を受けた前受金一、〇〇〇、〇〇〇円を同年八月二四日工事代金に振替え、その合計額二、〇〇〇、〇〇〇円は全額確定した収入金として計上すべきものであるから、右二、〇〇〇、〇〇〇円のうち未完成工事部分は存しないのである。

(4) 日本興業銀行石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は六、二〇〇、〇〇〇円で、被告主張額は七、六〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年一月二〇日工事代金請求分三〇〇、〇〇〇円、同年三月二八日同一、〇〇〇、〇〇〇円、同年四月一九日同一、〇〇〇、〇〇〇円、同年五月二一日同八〇〇、〇〇〇円、同年六月二〇日同七〇〇、〇〇〇円、同日出来高検収により前年前受金を工事代金に振替えた分二、三〇〇、〇〇〇円、同年七月二〇日出来高検収により前年前受金を工事代金に振替えた分二〇〇、〇〇〇円、同日工事代金請求分三〇〇、〇〇〇円、同年八月一二日同三〇〇、〇〇〇円、同月二〇日同三〇〇、〇〇〇円、同月二四日同四〇〇、〇〇〇円)であり、原告は一、四〇〇、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原告において、前受金二、五〇〇、〇〇〇円中一、〇〇〇、〇〇〇円を昭和二七年度収入金として計上しなかつたこと、昭和二七年八月二四日原告請求分四〇〇、〇〇〇円を同年度収入金として計上しなかつたこと、以上二つの収入金の未計上から生じたものである。被告は右二つの未計上額の合計一、四〇〇、〇〇〇円は昭和二七年度の収入金として計上すべきことを主張し、以下前受金二、五〇〇、〇〇〇円を全額昭和二七年度収入金として計上した根拠につき述べる。

原告は注文者である訴外大林組から昭和二六年一〇月三一日頃前受金として二、五〇〇、〇〇〇円を受取つたのであるが、昭和二六年中における工事出来高は注文者によつて検収確認されたものとしては零であつた。右前受金は昭和二七年六月二〇日の検収の際に二、三〇〇、〇〇〇円、同年七月二〇日の検収の際に二〇〇、〇〇〇円が各出来高の内金として工事収入金に振替えられているから、右二、五〇〇、〇〇〇円は全額昭和二七年度分の収入金として計上されるべきものである。

(5) 勧業銀行梅田支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は三、三六〇、〇〇〇円で、被告主張額は五、二五〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年六月一四日受領した分一、〇〇〇、〇〇〇円、同年七月四日同五〇〇、〇〇〇円、同月五日同一、〇〇〇、〇〇〇円、同月一五日同五〇〇、〇〇〇円、同月三一日同五〇〇、〇〇〇円、同年八月四日同二五〇、〇〇〇円、同年九月二日同六一六、八〇〇円、同月五日同八八三、二〇〇円)であり、原告は一、八九〇、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原告において、未完成工事三六%分、一、八九〇、〇〇〇円を収入金から控除していることから生じたものである。被告は右一、八九〇、〇〇〇円を収入金から控除することを不可と主張し、以下その理由を述べる。

原告は注文者である訴外株式会社戸田組(以下単に訴外戸田組と称する。)から昭和二七年六月一四日から同年九月五日までの間八回にわたつて、右工事関係の収入金合計五、二五〇、〇〇〇円を受取つたのであるが、これらはいずれも訴外戸田組において検収確認された出来高以内において支払を受けたものであり、右五、二五〇、〇〇〇円は全額昭和二七年度における原告の確定した収入金であるから、右金額のうちの三六%分、一、八九〇、〇〇〇円を未完成工事として控除することは失当である。

(6) テキスタイル銀行石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は、二、四七九、〇〇〇円で、被告主張額は三、七〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年五月二〇日工事代金請求分一、〇〇〇、〇〇〇円、同年六月二〇日同一、〇〇〇、〇〇〇円、同年七月二〇日同一、〇〇〇、〇〇〇円、同年八月二〇日同七〇〇、〇〇〇円)であり、原告は一、二二一、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原告において未完成工事三七%分、一、二二一、〇〇〇円を収入金から控除していることから生じたものである。被告は右一、二二一、〇〇〇円を収入金から控除することを不可と主張し、以下その理由を述べる。

原告は注文者である訴外株式会社竹中工務店(以下単に訴外竹中工務店と称する。)より昭和二七年五月二〇日から同年八月二〇日までの間、四回にわたつて同関係の収入金合計三、七〇〇、〇〇〇円を請求し、その頃右各金員の支払を受けているが、これらはいずれも注文者である訴外竹中工務店において検収確認された出来高に応じて原告が各請求受領したものであるから、右三、七〇〇、〇〇〇円は全額昭和二七年度における確定した収入金として、原告個人の所得に計上されるべきものである。

(7) 大和ビルデイング石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の被告主張額は、五、八六三、〇一八円である。この内訳は、昭和二七年一月一九日工事代金請求分二、〇〇〇、〇〇〇円、同年二月九日同一、五〇〇、〇〇〇円、同年三月一一日同七三〇、〇〇〇円、同年五月一七日同七三三、〇一八円、同年六月三〇日同八〇〇、〇〇〇円、同年五月三一日同九〇、〇〇〇円、同年六月三〇日同八、〇〇〇円、同年七月三一日同二、〇〇〇円である。

(8) 新光ビル石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の被告主張額は八五〇、〇〇〇円である。この内訳は昭和二七年一月二〇日工事代金請求分五〇〇、〇〇〇円、同年二月一八日同二二〇、〇〇〇円、同年四月九日同一三〇、〇〇〇円である。

(9) 神戸銀行船場支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の被告主張額は一、〇〇〇、〇〇〇円である。これは、昭和二七年七月二〇日工事代金請求分に該当する。

(10) 新阪神ビル石工事関係

原告は、昭和二七年六月二四日前受金二、三〇〇、〇〇〇円の支払を受けているが、前受金相当額の工事が完成し、検収のあつた時期は、訴外中西石材店設立後の同年一二月一六日であるから、昭和二七年度の収入金より除外した。

(11) 大和銀行片町支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の被告主張額は零である。即ち、原告が同工事を施行した事実は認められないからである。

(12) 富士銀行難波支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の被告主張額は三、五〇〇、〇〇〇円である。この内訳は昭和二七年二月一七日工事代金請求分一、五〇〇、〇〇〇円、同年七月二〇日同一、〇〇〇、〇〇〇円、同年八月二〇日同一、〇〇〇、〇〇〇円である。

(13) 第一生命ビル石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の被告主張額は三、〇〇〇、〇〇〇円である。この内訳は、昭和二七年四月一八日工事代金請求分一、〇〇〇、〇〇〇円、同年六月一八日同一、〇〇〇、〇〇〇円、同年七月一八日同一、〇〇〇、〇〇〇円である。

(14) 室町物産石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の被告主張額は、一九〇、〇〇〇円である。

(15) 帝人岩国支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の被告主張額は零である。これは、工事代金の請求権が確定したのは、昭和二七年九月一六日の工事出来高検収によるから、右代金は訴外中西石材店の計算に帰属さすべきものである。

(二)  期末たな卸金額について。

原告は、期末たな卸金額として、一五四、〇九〇円を計上しているが、右金額に五七、二七〇円を加算した額二一一、三六〇円を正当な棚卸金額として計上すべきである。即ち、原告が昭和二七年九月一日に訴外大林組から買受けた木材一一四、五四〇円のうち、二分の一相当額の五七、二七〇円が同月一二日現在の期末たな卸材料となつており、これが原告の修正確定申告の原因の一となつていたものである。

(三)  諸経費のうち交際費について。

交際費についての原告の計算には、昭和二七年九月一五日三〇〇、〇〇〇円の振替処理分が含まれているが、この金額を支出した事実、使途、振替根拠等の一切がはつきりとしない経理であるから、その支出を認めることはできない。即ち、原告は、昭和二七年二月福井地方裁判所関係で五〇、〇〇〇円、同年三月神戸銀行船場支店関係で五〇、〇〇〇円、同年五月新阪神ビル関係で五〇、〇〇〇円、同年八月富士銀行難波支店関係で五〇、〇〇〇円、同年九月千代田銀行大阪支店関係で五〇、〇〇〇円、同月第一生命ビル関係で五〇、〇〇〇円を各支出したと主張されるが、若し現実にその支出がなされたのであれば、それぞれの時に現金または当座預金の支出の記帳がなければならないのに拘らず、その記帳が存在せず、従つて前記各金額の支払の事実は存しないといわなければならない。また、右の各金額がいずれも五〇、〇〇〇円という端数のない均一金額であることも経費としての性質上納得できない。さらに、前記各交際費の内容は、被告の主張によると、現場で工事に着工する際とか落成の場合に、現場の原告従業員または店外のとび職、大工、左官に対する祝儀として酒、たばこ等を支給するための費用とのことであるから、その支出は工事の着工または落成の時でなければならないのに、前記神戸銀行船場支店石工事の第一回契約成立の日は昭和二七年四月一七日であるのに拘らず、その前月である同年三月に五〇、〇〇〇円の支出がなされたことになつており、新阪神ビル石工事の契約成立の日は昭和二七年六月二七日であるのに拘らず、同様その前月である同年五月に五〇、〇〇〇円の支出がなされたことになつており、前記福井地方裁判所石工事は昭和二七年四月一八日頃工事に着工したものと解せられるのに拘らず、その前々月である同年二月に五〇、〇〇〇円の支出がなされたことになつている。そして富士銀行難波支店石工事、第一生命ビル石工事関係で原告が支出したと主張される日時は(前者は昭和二七年八月、後者は同年九月)、工事の着工時にも、落成時にも全く関係のない中間の日時であつて、このような時に祝儀として酒、たばこ等を支給することはありえない。結局、原告が交際費として計上した三〇〇、〇〇〇円は根拠のない架空の経理といわなければならず、これを経費として認めることはできないわけである。

以上要するに、原告の昭和二七年度分の事業所得の計算は別表一の収支計算書の被告主張金額欄に記載のとおり、六、六六〇、〇八〇円であり、この金額に争いのない給与所得金額一〇五、〇〇〇円、農業所得金額五〇、〇〇〇円を加算すると、原告の同年中の総所得金額は前記のとおり六、八一五、〇八〇円になるから、これより内輪の二、一七九、五二七円と認定してなされた被告の審査決定には、なんら違法はない。

四、被告の主張に対する原告の反駁

(一)  収入金について。

原告の収入金算定法は、工事着工時、もしくは時宜に応じ、工事代金の内金を着工資金として受取つたものを、一応前受金に仕訳し、工事の完成度に応じ、完成部分に対応する金額を収入金に振替えるように経理しているものである。即ち、原告の石工事の収入金は、すべて出来高払の特約が付された請負契約によつたものであることは認めるが、その収入金の確定時期は、注文者が竣工の検収をした時、又は注文者との間に、原告の工事現場において、現在出来高の検収がなされ、その竣工に対する完成度の割合、即ち、工事進捗度を計出し、前受金について工事進捗度に応じ、その対応額を算出した時期である。そして右工事進捗度は、石工事全体に対する施工済(振附済)の石、現場或は原告作業場に於ける加工中の石、及び原告倉庫に格納された原石の合計の割合を以つてするものである。但し岩場に於ける切出中の石及び切出された石は含まれない。原告は、過去数年にわたり、右算定法に基いて、所得金額を算定してきたものであり、これに対し、被告から何の異議の申出もなかつた。原告の主張する収入金は、別表二の収入金明細対比表の原告主張額欄記載のとおりであり、被告主張額と相違する点の中、原告主張額が被告主張額に満たない部分については以下(1)乃至(6)において、原告主張額が被告主張額を超過する部分については同(7)乃至(15)においてそれぞれその内容を敷衍して説明する。

尤も右原告主張額が被告主張額を超過する部分については、石工事収入金の算定法につき被告の主張する方法によつて計算すれば、それぞれ被告主張の金額となることは認める。

(1) 千代田銀行大阪支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は一三、一三二、〇〇〇円である。昭和二七年九月一五日原告はその事業を訴外中西石材店に引継ぎしたところ、同日の原告個人事業としての右石工事進捗度は九八%であつたので、原告の昭和二七年度の収入は、昭和二六年度に支払を受けた前受金のうち、昭和二七年度に繰越した分、二、四〇〇、〇〇〇円(即ち原告は訴外大林組から前受金として受領した六、〇〇〇、〇〇〇円のうち、昭和二六年度における右石工事の工事進捗度は六〇%であつたので、その六〇%三、六〇〇、〇〇〇円を同年度の収入として、同年度所得に計上し、昭和二七年度に右前受金四〇%金二、四〇〇、〇〇〇円が繰越された。)、昭和二七年中一三回にわたつて前受金として受領した合計一一、〇〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年一月三〇日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年二月五日一、〇〇〇、〇〇〇円、同月二九日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年三月一五日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年四月一五日八〇〇、〇〇〇円、同月三〇日二〇〇、〇〇〇円、同年五月九日一、〇〇〇、〇〇〇円、同月三一日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年六月一五日七〇〇、〇〇〇円、同月三〇日八〇〇、〇〇〇円、同年七月三一日七〇〇、〇〇〇円、同年八月八日八〇〇、〇〇〇円、同年九月一日一、〇〇〇、〇〇〇円)以上合計一三、四〇〇、〇〇〇円の九八%相当額一三、一三二、〇〇〇円であり、右石工事残二%は訴外中西石材店において引継ぎしたので、右前受金一三、四〇〇、〇〇〇円の二%に相当する二六八、〇〇〇円は、同店の計算に帰属すべきものである。

(2) 山蔭合同銀行石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は、一、六五〇、〇〇〇円である。即ち原告の昭和二七年度の収入は、昭和二六年度に支払を受けた前受金のうち、昭和二七年度に繰越した分一五〇、〇〇〇円(即ち、原告は昭和二六年六月二五日訴外大林組から支払を受けた前受金一、五〇〇、〇〇〇円のうち、同年度における収入として、同年度の同工事進捗度九〇%に相当する一、三五〇、〇〇〇円を計上し、その残一〇%分一五〇、〇〇〇円を昭和二七年に繰越した。)、昭和二七年五月二二日受領した一、五〇〇、〇〇〇円以上合計一、六五〇、〇〇〇円である。

(3) 福井地方裁判所石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は、一、八〇〇、〇〇〇円である。これは、前記事業引継日である昭和二七年九月一五日現在の同石工事進捗度は九〇%であつたので、原告の昭和二七年度の収入は、昭和二七年中、二回にわたつて受領した合計二、〇〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年四月三〇日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年八月二四日一、〇〇〇、〇〇〇円)の九〇%相当額一、八〇〇、〇〇〇円であり、右石工事残一〇%相当額二〇〇、〇〇〇円は、引継ぎした訴外中西石材店の計算に帰属すべきものである。

(4) 日本興業銀行石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は六、二〇〇、〇〇〇円である。即ち、原告の昭和二七年度の収入は、昭和二六年度に支払を受けた前受金のうち、昭和二七年度に繰越した分一、五〇〇、〇〇〇円(即ち、原告は昭和二六年一一月訴外大林組から支払を受けた前受金二、五〇〇、〇〇〇円のうち、同年度における収入として同年度の同工事進捗度四〇%に相当する一、〇〇〇、〇〇〇円を計上し、その残六〇%分一、五〇〇、〇〇〇円を昭和二七年に繰越した。)、昭和二七年中九回にわたつて受領した合計四、七〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年二月二日三〇〇、〇〇〇円、同年三月三一日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年五月一日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年六月二日六〇〇、〇〇〇円、同月一七日二〇〇、〇〇〇円、同月三〇日七〇〇、〇〇〇円、同年七月三〇日三〇〇、〇〇〇円、同年八月一五日三〇〇、〇〇〇円、同年九月二日三〇〇、〇〇〇円)以上合計六、二〇〇、〇〇〇円である。

(5) 勧業銀行梅田支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は三、三六〇、〇〇〇円である。これは前記事業引継日である昭和二七年九月一五日現在の同石工業進捗度は、六四%であつたので、原告の昭和二七年度の収入は、同年中、八回にわたつて受領した合計五、二五〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年六月一五日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年七月四日五〇〇、〇〇〇円、同月五日一、〇〇〇、〇〇〇円、同月一五日五〇〇、〇〇〇円、同月三一日五〇〇、〇〇〇円、同年八月五日二五〇、〇〇〇円、同年九月五日八八三、二〇〇円、同日六一六、八〇〇円)の六四%相当額三、三六〇、〇〇〇円であり、右石工事残三六%相当額一、八九〇、〇〇〇円は、引継ぎした訴外中西石材店の所得に計上されるべきものである。被告主張の中右五、二五〇、〇〇〇円が訴外戸田組の検収を経て支払われたものであることは認める。

(6) テキスタイル銀行石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は、二、四七九、〇〇〇円である。これは前記事業引継日である昭和二七年九月一五日現在の同石工事進捗度は六七%であつたので、原告の昭和二七年度の収入は、同年中四回にわたつて受領した合計三、七〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年六月五日七〇〇、〇〇〇円、同年七月五日一、三〇〇、〇〇〇円、同年八月一日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年九月五日七〇〇、〇〇〇円)の六七%相当額二、四七九、〇〇〇円であり、右石工事残三三%相当額一、二二一、〇〇〇円は引継ぎした訴外中西石材店の所得に算入されるべきものである。

(7) 大和ビルデイング石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は、七、三一七、七二三円である。この内訳は、昭和二七年一月三一日二、五〇〇、〇〇〇円、同年三月三一日七五〇、〇〇〇円、同年四月五日七五〇、〇〇〇円、同年四月三〇日三〇〇、〇〇〇円、同年五月三一日四〇〇、〇〇〇円、同年六月三〇日四〇〇、〇〇〇円、同年七月一五日四〇〇、〇〇〇円、同日八一五、一六三円、同年八月一日一、〇〇〇、五六〇円、同年九月一日二、〇〇〇円である。

(8) 新光ビル石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は、一、〇〇〇、〇〇〇円である。この内訳は昭和二七年一月二四日二〇〇、〇〇〇円、同年二月二日一五〇、〇〇〇円、同月一六日一〇〇、〇〇〇円、同月二五日二〇〇、〇〇〇円、同年四月一五日二〇〇、〇〇〇円、同年五月一五日一五〇、〇〇〇円である。

(9) 神戸銀行船場支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は一、五六〇、〇〇〇円である。これは、前記事業引継日である昭和二七年九月一五日現在の同石工事進捗度は、七八%であつたので原告の昭和二七年度の収入は同年中三回にわたつて受領した合計二、〇〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年四月三〇日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年八月一八日五〇〇、〇〇〇円、同年九月一日五〇〇、〇〇〇円)の七八%相当額一、五六〇、〇〇〇円であり、右石工事残二二%相当額四四〇、〇〇〇円は、引継ぎした訴外中西石材店の所得に帰属したものである。

(10) 新阪神ビル石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は八七四、〇〇〇円である。これは前記事業引継日である昭和二七年九月一五日現在の同石工事進捗度は三八%であつたので、原告の昭和二七年度の収入は同年中二回にわたつて受領した合計二、三〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年七月一五日一、三〇〇、〇〇〇円、同月三一日一、〇〇〇、〇〇〇円)の三八%相当額八七四、〇〇〇円であり、右石工事残六二%相当額一、四二六、〇〇〇円は引継ぎした訴外中西石材店の所得に帰属したものである。

(11) 大和銀行片町支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は二、〇〇〇円である。

(12) 富士銀行難波支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は、三、六五四、七五〇円である。即ち、原告の昭和二七年度の収入は、昭和二六年度に支払を受けた前受金のうち、昭和二七年度に繰越した分六五四、七五〇円(即ち、原告は昭和二六年度において、訴外竹中工務店から支払を受けた前受金一、三〇九、五〇〇円のうち、同年度における収入として同年度の同工事進捗度五〇%に相当する六五四、七五〇円を計上し、その残五〇%分、六五四、七五〇円を昭和二七年に繰越した。)、昭和二七年中三回にわたつて受領した合計三、〇〇〇、〇〇〇円、(内訳、昭和二七年三月二〇日一、五〇〇、〇〇〇円、同年八月五日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年九月五日五〇〇、〇〇〇円)以上合計三、六五四、七五〇円である。

(13) 第一生命ビル石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は三、二五〇、〇〇〇円である。即ち、原告の昭和二七年度の収入は、昭和二六年度に支払を受けた前受金のうち、昭和二七年度に繰越した分二五〇、〇〇〇円(即ち、原告は、昭和二六年一二月三日訴外竹中工務店から支払を受けた前受金二、五〇〇、〇〇〇円のうち、同年度における収入として同年度の同工事進捗度九〇%に相当する二、二五〇、〇〇〇円を計上し、その残一〇%分、二五〇、〇〇〇円を昭和二七年に繰越した。)、昭和二七年中、五回にわたつて受領した合計三、〇〇〇、〇〇〇円(内訳、昭和二七年五月七日七〇〇、〇〇〇円、同月三一日三〇、〇〇〇円、同年七月五日五〇〇、〇〇〇円、同月一五日五〇〇、〇〇〇円、同年八月五日一、〇〇〇、〇〇〇円)以上合計三、二五〇、〇〇〇円である。

(14) 室町物産石工事

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は二六〇、〇〇〇円である。

(15) 帝人岩国支店石工事関係

別表二のとおり、同関係の収入金の原告主張額は、一、〇六六、五九〇円である。これは、前記事業引継日である昭和二七年九月一五日現在の同石工事進捗度は七〇%であつたので、原告の昭和二七年度の収入は、訴外竹中工務店から受領していた前受金一、五二三、七〇〇円の七〇%相当額一、〇六六、五九〇円であり、右石工事残三〇%相当額四五七、一一〇円は引継ぎした訴外中西石材店の所得に帰属すべきものである。

(二)  期末たな卸について。

被告は、原告主張額の外に、昭和二七年九月一日訴外大林組から買受けた木材一一四、五四〇円の内、二分の一相当額のものがたな卸になつている旨主張するが、原告は同年五月九日から同月一五日までに訴外大林組から、同組が千代田銀行大阪支店増改築工事の内、仮設事務所に使用したものを、バラした廃材を買受けたものであるが、原告はこれを全部石養材に使用したから、期末たな卸として在庫するものは皆無である。

(三)  諸経費のうち、交際費について。

原告は被告の認める交際費三四八、三一四円の外に、昭和二七年二月福井地裁、同年三月神戸銀行船場支店、同年五月新阪神ビル、同年八月富士銀行難波支店、同年九月千代田銀行大阪支店、同月第一生命ビル各五〇、〇〇〇円宛合計三〇〇、〇〇〇円を交際費として支出している。即ち、原告は前記石工事について、その着工時、あるいは完成時に、時宜に応じて慣例に従い、現場監督、人夫に祝儀として酒、たばこを給与したものである。これらの費用は、原告の被用者を督励し、その能率を上げ、工事を促進するためのものであつて、総収入金額を得るためのものである。もつとも右支出について、金銭出納帳にその旨記帳せず、且つ出金伝票も存在しないことは認める。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告は、全国各地のビルデイング等の石工事を主とした事業を行い、その他墓石の建設、墓参用花の売買及び農業経営を行つているものであつて、昭和二七年九月一六日訴外中西石材店設立以後は給与所得を有していること、原告は、昭和二八年三月二六日亡中西藤市名義で、(原告は亡中西藤市の相続人である。)、訴外豊能税務署長に対し、原告の昭和二七年度分所得税の確定申告として、総所得金額を一、七八八、九〇六円(内訳、石工事による事業所得一、六三三、九〇六円、農業経営による事業所得五〇、〇〇〇円、及び給与所得一〇五、〇〇〇円)と申告したところ、同署長は同月三一日右金額を四、〇八六、〇〇〇円(内訳、石工事による事業所得三、九三一、〇〇〇円、農業経営による事業所得及び給与所得の額はいずれも原告の申告額と同じ)と更正する旨の決定をしたこと、原告は同年四月三〇日同署長に対し、再調査の請求をしたが、その請求は、同三〇年六月二三日に棄却されたこと、そこで原告はさらに被告に対し、同年七月一日審査の請求をしたところ、被告は同三二年二月六日に同署長のした右再調査の請求棄却の決定及び右更正決定の一部を取り消し原告の所得を二、一七九、五二七円(内訳、石工事による事業所得二、〇二四、五二七円、農業経営による事業所得及び給与所得の金額はいずれも原告の前記申告額と同じ)に変更する旨決定し、同日その旨原告に通知したことは当事者間に争がない。

二、ところで、原告の昭和二七年度分の総所得金額について、原告は、別表一の収支計算書中の原告主張金額欄記載のとおり、総計六一〇、八五五円である旨主張し、一方被告は、同収支計算書中の被告主張金額欄記載のとおり、総計六、八一五、〇八〇円である旨主張するところ、同収支計算書で明らかなとおり、原告の給与所得金額が一〇五、〇〇〇円であること、及び農業経営による事業所得金額が五〇、〇〇〇円であることについては、双方に争いはなく、石工事による事業所得に関してのみ争いがあるのであるから、以下右事業所得の計算において、原、被告の各主張の当否について判断する。

(収入金について)

被告は、「原告の石工事収入金はすべて出来高払の特約が付された請負契約によつたものであり、その収入金の確定する時期は、注文者が出来高の検収をし、原告が工事代金請求権を行使することができるようになつた時と解すべきである。ところが、原告は、請求して現実に支払われた金額のみを収入金として計上し、しかもこれを根拠なく一律に前受金とみなしているから、正当ではない。」旨主張し、これに対し、原告は、「工事着工時、もしくは時宜に応じ、工事代金の内金を着工資金として受取つたものを一応前受金に仕訳し、工事の完成度に応じ、完成部分に対応する金額を収入金に振替えるように経理していること、即ち原告の石工事の収入金はすべて出来高払の特約が付された請負契約によつたものであるが、その収入金の確定時期は、注文者が竣工の検収をした時、又は注文者との間に、原告の工事現場において、現在出来高の検収がなされ、その竣工に対する完成度の割合、工事進捗度を計出し、前受金について工事進捗度に応じ、その対応額を算出した時期である。原告は過去数年にわたり、右算定法に基いて、所得金額を算定してきたものであり、これに対し、被告から何の異議の申出もなかつたゆえ、原告の採用する収入金算定法が正当である。」旨主張するので、先づこの点につき判断する。

所得税法上、事業所得は、その年中の総収入金額から必要な経費を控除した金額である。そして税法上は、所得の認識基準については明定していないが、課税の明瞭、確実を期する上において、講学上のいわゆる現金主義によつては到底正確な損益を把握することはできないから、一般的に発生主義が採用され、その発生は、権利義務の確定により判定すべきものと解するのが相当である。従つて、事業所得の総収入金額とは、収入すべき金額の合計額であり、収入すべき金額とは、収入する権利の確定した金額をいうものである。右見地に立つて、請負契約による損益について考察する。請負とは、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して、これに報酬を与えることを約することによつて、その効果を生ずる契約である(民法六三二条参照)この請負契約には、土木工事、建物等の建築、船舶の建造等の契約のように仕事の目的物の引渡を要するものと、運送契約のように物の引渡しを要しないものとの二つの形態がある。そして物の引渡しを要する請負による報酬請求権は仕事の目的物の引渡しと同時に発生し、物の引渡しを要しない請負による報酬請求権は、その約した役務の終つたときに発生する。してみると、請負契約による収入の確定する時期は、一般原則として引渡を要するものについては、その目的物を注文者に提供する時であり、引渡を要しないものについては、仕事の完成の時であるということができる。要するに、会計原則上のいわゆる工事完成基準に一致する。但し、右一般原則は、建設請負等については、その建設工事等の一部が完成し、その完成した部分を引渡したつどその割合に応じて工事代金を収入する旨の特約又は慣習がある場合、その建設請負等に関する建設工事等の全部が完成しないときにおいても、その事業年度において完成した部分に対応する工事収入をその事業年度の収入に算入するいわゆる部分完成基準によるのが相当である。

本件についてこれをみるに、原告の石工事収入金はすべて出来高払の特約が付された請負契約によつたものであることは当事者間に争がないので、右にいわゆる部分完成基準によりその収入を算定すべきものである。ところで、建設請負等の工事出来高の引渡しが検収による確認を経てなされる場合、右検収の完了時が、右出来高に対応する工事代金の収入が確定した時期というべきである。従つて、被告の収入金の算定方法は相当であつて何ら違法ではない。他方原告の収入金算定法は、工事着工時もしくは時宜に応じ、工事代金の内金を着工資金として受取つたものを、一応前受金に仕訳し、工事の完成度に応じ、完成部分に対応する金額を収入金に振替える経理方法であつて、それによれば、その収入金の確定時期は、注文者が竣工の検収をした時、又は注文者との間に、原告の工事現場において、現在出来高の検収がなされ、その竣工に対する完成度の割合、即ち工事進捗度を計出し、前受金について、工事進捗度に応じ、その対応額を算出した時期とされている。しかしながら、既に述べたとおり、出来高払の特約が付された請負契約については、検収により確定された出来高に対応する工事収入がその確定された年度の収入金として計上すべきものであるから、原告の右主張のように、既に現実に受領した前受金の範囲内において、工事進捗度に対応する額のみ確定した収入金として計上する収入金算定法は、所得税法上不当であつて、是認できない。もつとも企業及び税務会計上いわゆる工事進行基準といわれるものが存し、これはいわゆる工事完成基準を採用した場合に、工事進行中途の各事業年度の収益が過少になるので、これを防ぐため、決算期末に工事進行程度を見積り、(この見積りは注文者と無関係に(イ)工事経過日数の必要工事日数に対する割合、(ロ)材料費の総工事見積原価に対する割合、(ハ)工事原価発生額の総見積原価に対する割合等によりなされる。)適正な工事収益率によつて工事収益の一部を当期の収益として計上する方法であるが、かかる工事進行基準は、前記部分完成基準の適用を受ける出来高払の特約が付された請負契約については、そもそも適用の余地がないものである。

以上の見地に立つて、別表二の収入金明細対比表中、被告主張額が原告主張額を超過する部分について、その計上に違法な点があるかどうかについて、順次審究する。

(1)  千代田銀行大阪支店石工事関係

別表二によれば、同関係の収入金の原告主張額は、一三、一三二、〇〇〇円で、被告主張額は、一七、五〇〇、〇〇〇円であり、原告は、被告より四、三六八、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原、被告の各主張内容を対比検討すると、原告において、前受金六、〇〇〇、〇〇〇円中、三、六〇〇、〇〇〇円を昭和二七年度収入金として計上しなかつたこと、未完成工事二%分二六八、〇〇〇円を収入金より控除していること、昭和二七年八月二〇日原告請求分五〇〇、〇〇〇円を同年度収入金として計上しなかつたこと、以上三つの金員合計四、三六八、〇〇〇円の未計上から生じていることが明らかである。そこで、右各諸点について検討すると、

(イ) 被告が前受金六、〇〇〇、〇〇〇円を全額昭和二七年度収入金として計上した点について。

証人吉田昌夫の証言並びに同証言により真正に成立したと認める乙第五号証の二によれば、訴外中西藤市は、昭和二六年八月八日訴外大林組と同工事について請負金額一八、〇〇〇、〇〇〇円の請負契約を締結したこと(なお同契約が出来高払の特約付のものであつたことは当事者間に争がない。)、昭和二六年中に訴外大林組は、仮払金として、六、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたこと、昭和二七年一月一九日頃実施された検収による同工事出来高は、九、二〇〇、〇〇〇円であつたこと、その結果訴外中西から訴外大林組に対し、合計九、〇〇〇、〇〇〇円外註工賃の支払請求がなされ、これに対し、訴外大林組から同年一月三一日、同年二月一八日、同月二九日各一、〇〇〇、〇〇〇円宛右外註工賃として支払れると共に、同月二九日前記繰越仮払金六、〇〇〇、〇〇〇円は右外註工賃に振替えられたこと、がそれぞれ認められ、以上の認定事実を左右するに足りる証拠はない。従つて被告において、右六、〇〇〇、〇〇〇円を全額昭和二七年度における原告の確定した工事収入金として計上したのは、相当である。

もつとも、原告は、前記前受金六、〇〇〇、〇〇〇円のうち、昭和二六年度における右石工事の工事進捗度は六〇%であつたので、その六〇%分金三、六〇〇、〇〇〇円を同年度の収入として同年度所得に計上済みである旨主張する。しかし右主張に副う証人牧野益男の証言は直ちに信用し難く、他に右主張事実を認むべき的確な証拠は存しない。そして、仮に原告が右主張のごとき税務会計処理をなしたとしても、右工事進捗度六〇%を計出するについて、訴外大林組との間に出来高検収を経たことの立証もない本件においては、右六〇%は原告の方で、税務処理上、一方的に計出したものと解さゞるをえず、してみると、原告は、未確定収入金を昭和二六年度所得に計上したものというべく、このことは、同年度所得額を争う事由となつても昭和二七年度収入金から、その分だけ控除して計上することが許される根拠とはならないのである。さらに、原告の主張する工事進捗度とは「竣工に対する完成度の割合即ち石工事全体に対する施工済(振附済)の石、現場或は原告作業場に於ける加工中の石及び原告倉庫に格納された原石の合計の割合を以つてする。(但し岩場における切出中の石及び切出された石は含まれない。)」というにある。ところが、前記六〇%は、単に前受金に対応する工事量を一〇〇%とした上で、算出されているのであつて、石工事全体に対する工事完成度の割合ではない。ゆえに、原告の主張する工事進捗度六〇%は、そもそも的確なものとはいえないのである。よつて原告の主張は、到底採用できない。

(ロ) 被告が未完成工事二〇%分の二六八、〇〇〇円を収入金から控除しなかつた点

前掲証拠によれば、昭和二七年八月二〇日現在における同工事関係の検収出来高は、一七、六〇〇、〇〇〇円で、原告のその日迄の請求済みの分は、一七、五〇〇、〇〇〇円であつたこと、但し訴外中西石材店設立の前日である昭和二七年九月一五日迄には、訴外大林組からは、一七、〇〇〇、〇〇〇円しか支払れなかつたこと、残金は右設立後の同月三〇日、同年一〇月一五日に支払れていること、が認められ、以上の認定事実を覆すに足りる証拠はない。右のように、昭和二七年度内に全額現実に受領していなかつたとしても、検収済みの出来高一七、六〇〇、〇〇〇円は、いわゆる確定した収入金と目されるから、被告において、右の内金(原告の請求済みの分)一七、五〇〇、〇〇〇円を全額同年度における原告の工事収入金として計上したのは、相当である。これに反し、原告が右金額のうちの二%分二六八、〇〇〇円を未完成工事として、差引くことは何らの根拠もなく失当である。

(ハ) 被告が昭和二七年八月二〇日原告請求分五〇〇、〇〇〇円を原告の同年度収入金として計上した点

前掲証拠によれば、右金員は昭和二七年八月二〇日頃検収出来高を五〇〇、〇〇〇円(同日の検収出来高累計一七、六〇〇、〇〇〇円から同年七月二〇日の同累計一七、一〇〇、〇〇〇円を控除した金額)とする旨の確認を受け、訴外中西藤市名義で同日その支払請求がなされたものであることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。従つて、検収による出来高の確認を受けた同日頃、右金員は原告の工事収入金として確定していたものというべきであるから、被告において、右金員を昭和二七年度における原告の個人所得としてその収入金に計上したのは、相当である。

(ニ) 以上被告において、原告が未計上とした(イ)の三、六〇〇、〇〇〇円、(ロ)の二六八、〇〇〇円、(ハ)の五〇〇、〇〇〇円の合計額四、三六八、〇〇〇円を昭和二七年度における原告の工事収入金として計上したのは相当であるから、右金員に原告主張額一三、一三二、〇〇〇円(当事者間に争いのない原告の確定収入金の限度額である。)を加算すれば、一七、五〇〇、〇〇〇円となり、同関係の被告主張額に一致するので、別表二の同関係についての被告主張額に不当な点はない。

(2)  山蔭合同銀行石工事関係

別表二によれば、同関係の収入金の原告主張額は一、六五〇、〇〇〇円で、被告主張額は三、〇〇〇、〇〇〇円であり、原告は、被告より一、三五〇、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原、被告の各主張内容を対比検討すると、原告において、前受金一、五〇〇、〇〇〇円中、一、三五〇、〇〇〇円を昭和二七年度収入金として計上しなかつたこと、反面被告において、前受金一、五〇〇、〇〇〇円全額を昭和二七年度収入金として計上していることから生じていることが明白である。そこで、右不一致の点について検討すると、

(イ) 弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第三号証、証人吉田昌夫の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証の一、並びに同証言を総合すると、訴外中西藤市は、昭和二六年六月一八日訴外大林組と同工事について請負金額三、九〇〇、〇〇〇円(但し七〇〇、〇〇〇円実施増となる。)の請負契約を締結し(なお同契約が出来高払の特約付のものであつたことは当事者間に争がない。)昭和二六年六月二五日訴外大林組は仮払金として一、五〇〇、〇〇〇円を支払つたこと、昭和二六年中における工事出来高は、検収確認されたものとしては、零であつたこと、昭和二七年五月二二日頃実施された右工事の第一回検収による出来高は、三、〇四二、〇〇〇円であつたこと、その結果訴外中西から訴外大林組に対し、合計三、〇〇〇、〇〇〇円外註工賃の支払請求がなされ、これに対し、訴外大林組から同年七月三一日一、五〇〇、〇〇〇円右外註工賃として支払れると共に、同日右繰越仮払金一、五〇〇、〇〇〇円は、右外註工賃に振替えられたことがそれぞれ認められ、以上の認定に反する証人牧野益男の証言は信用し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。従つて被告において右一、五〇〇、〇〇〇円を全額昭和二七年度における原告の確定した工事収入金として計上したのは相当である。もつとも、原告は、昭和二六年中に支払を受けた前受金一、五〇〇、〇〇〇円のうち、同年度における収入として同年度の同工事進捗度九〇%に相当する一、三五〇、〇〇〇円を計上済である旨主張するが、同主張の失当であることは、前記千代田銀行大阪支店石工事関係において記述したとおりである。

(ロ) 以上、被告において、原告が未計上とした一、三五〇、〇〇〇円を昭和二七年度における原告の工事収入金として計上したのは、相当であるから、右金員に原告主張額一、六五〇、〇〇〇円(当事者間に争いのない原告の確定収入金の限度額である。)を加算すれば、三、〇〇〇、〇〇〇円となり、同関係の被告主張額に一致するので、別表二の同関係についての被告主張額に不当な点はない。

(3)  福井地方裁判所石工事関係

別表二によれば、同関係の収入金の原告主張額は、一、八〇〇、〇〇〇円で、被告主張額は二、〇〇〇、〇〇〇円であり、原告は被告より二〇〇、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原、被告の各主張内容を対比検討すると、原告において、未完成工事一〇%分二〇〇、〇〇〇円を収入金から控除していること、反面被告は右二〇〇、〇〇〇円を収入金から控除しなかつたことから生じていること明らかである。そこで、この点について検討すると、前掲乙第五号証の二、及び証人吉田昌夫の証言によれば、昭和二七年八月二四日における原告の同関係の検収出来高は、二、一〇九、四二一円九〇銭であつたこと、その結果同日訴外中西から訴外大林組に対し、合計二、〇〇〇、〇〇〇円外註工賃の支払請求がなされ、これに対し、訴外大林組から同年九月一六日八〇〇、〇〇〇円右外註工賃として支払れると共に、同日既に同年四月三〇日支払つた繰越仮払金一、〇〇〇、〇〇〇円を右外註工賃に振替えられたこと、更に右請求残二〇〇、〇〇〇円は同年九月三〇日に支払れていることが認められ、以上の認定を覆えすに足りる証拠はない。従つて、右二、〇〇〇、〇〇〇円は訴外中西石材店成立の日である同年九月一六日以前に全額現実に支払れていなかつたのであるが、同年八月二四日既に検収出来高二、一〇九、四二一円九〇銭は、原告の工事収入金として確定し、その内金として、二、〇〇〇、〇〇〇円訴外中西藤市名義でその支払請求がなされている以上、被告において右金員を昭和二七年度における原告の個人所得としてその収入金に計上したのは相当であり、原告の主張するごとく昭和二七年九月一五日現在同工事について未完成部分一〇%が存するとして、その相当分二〇〇、〇〇〇円を右確定した収入金二、〇〇〇、〇〇〇円から控除することは失当である。

(4)  日本興業銀行石工事関係

別表二によれば、同関係の収入金の原告主張額は、六、二〇〇、〇〇〇円で、被告主張額は、七、六〇〇、〇〇〇円であり、原告は被告より一、四〇〇、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原、被告の各主張内容を対比検討すると原告において前受金二、五〇〇、〇〇〇円中、一、〇〇〇、〇〇〇円を昭和二七年度収入金として計上しなかつたこと、昭和二七年八月二四日原告請求分四〇〇、〇〇〇円を同年度収入金として計上しなかつたこと、以上二つの金員合計一、四〇〇、〇〇〇円の未計上から生じていることが明らかである。そこで、右不一致の諸点について検討すると、

(イ) 被告が、前受金二、五〇〇、〇〇〇円を全額昭和二七年度収入金として計上した点について。

証人吉田昌夫の証言並びに同証言により真正に成立したと認める乙第五号証の四によれば、訴外中西藤市は、昭和二六年一〇月五日訴外大林組と同工事について請負金額七、六〇〇、〇〇〇円の請負契約を締結し、(なお同契約が出来高払の特約付のものであつたことは当事者間に争がない。)同年一〇月三一日頃訴外大林組は仮払金として二、五〇〇、〇〇〇円を支払つたこと、昭和二六年中における工事出来高は、検収確認されたものは零であつたこと、昭和二七年六月二〇日頃実施された検収による同工事出来高累計は六、二二二、三一八円であつたこと、その結果、同日訴外中西から訴外大林組に対し、三、〇〇〇、〇〇〇円外註工賃の支払請求がなされ、これに対し、訴外大林組から同月三〇日右外註工賃として七〇〇、〇〇〇円支払れると共に、右繰越仮払金二、五〇〇、〇〇〇円の内、二、三〇〇、〇〇〇円が、右外註工賃に振替えられたこと、更に同年七月二〇日頃実施された検収による同工事出来高累計は、六、八二四、三九四円であつたこと、その結果、同日訴外中西から訴外大林組に対し、五〇〇、〇〇〇円外註工賃の支払請求がなされ、これに対し、訴外大林組から同月三一日右外註工賃として三〇〇、〇〇〇円支払れると共に、右繰越仮払金二、五〇〇、〇〇〇円の残二〇〇、〇〇〇円が、右外註工賃に振替えられたことがそれぞれ認められ、右認定に反する証人牧野益男の証言は信用し難く、他に以上の認定を左右するに足りる証拠はない。従つて、被告において、右二、五〇〇、〇〇〇円を全額昭和二七年度における原告の確定した工事収入金として計上したのは、相当である。もつとも、原告は、前受金二、五〇〇、〇〇〇円のうち昭和二六年度における収入として同年度の同工事進捗度四〇%に相当する一、〇〇〇、〇〇〇円を計上済である旨主張するが、同主張の失当であることは、前記千代田銀行大阪支店石工事関係において記述したとおりである。

(ロ) 被告が昭和二七年八月二四日原告請求分四〇〇、〇〇〇円を原告の同年度収入金として計上した点について。

前掲証拠によれば、右金員は昭和二七年八月二四日頃出来高累計を七、六〇〇、〇〇〇円と確認する旨の検収が実施され、それに基き訴外中西藤市名義で、同日四〇〇、〇〇〇円の支払請求がなされたものであること、(七、二〇〇、〇〇〇円は、既に請求済である。)が認められ、右認定を左右する証拠はない。従つて、検収による出来高の確認を受けた同日頃、右金員は原告の工事収入金として確定していたものというべきであるから、被告において、右金員を原告の昭和二七年度における個人所得としてその収入金に計上したのは、相当である。尤も、前掲証拠によると、原告が現実に右四〇〇、〇〇〇円を領収したのは、訴外中西石材店成立後である同年一〇月一五日三〇〇、〇〇〇円、同年一一月一五日一〇〇、〇〇〇円であることが認められるけれども、この点は、前記判断に影響を及ぼさないこと、多言を要しない。

(ハ) 以上被告において、原告が未計上とした(イ)(ロ)の合計額一、四〇〇、〇〇〇円を昭和二七年度における原告の工事収入金として計上したのは相当であるから、右金額に原告主張額六、二〇〇、〇〇〇円(当事者間に争いのない原告の確定収入金の限度額である。)を加算すれば、七、六〇〇、〇〇〇円となり、同関係の被告主張額に一致するので、別表二の同関係についての被告主張額に違法な点はない。

(5)  勧業銀行梅田支店石工事関係

別表二によれば、同関係の収入金の原告主張額は三、三六〇、〇〇〇円で、被告主張額は五、二五〇、〇〇〇円であるから、原告は、被告より一、八九〇、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原、被告の各主張内容を対比検討すると、原告において、未完成工事三六%分一、八九〇、〇〇〇円を収入金から控除していること、反面被告は、右一、八九〇、〇〇〇円を収入金から控除しなかつたことから生じていること明らかである。そこで、この点について検討すると、成立に争いがない乙第二号証によれば、原告は、注文者である訴外戸田組から、検収確認を経て(この点は、当事者間に争いがない。)同工事関係の収入金として、小切手又は約束手形で、昭和二七年六月一四日一、〇〇〇、〇〇〇円、同年七月四日五〇〇、〇〇〇円、同月五日一、〇〇〇、〇〇〇円、同月一五日五〇〇、〇〇〇円、同月三一日五〇〇、〇〇〇円、同年八月四日二五〇、〇〇〇円、同年九月二日六一六、八〇〇円、同月五日八八三、二〇〇円以上合計五、二五〇、〇〇〇円を受取つていることが認められ、右認定を覆えすべき証拠はない。従つて、右五、二五〇、〇〇〇円は全額昭和二七年度における原告の確定した収入金というべく、被告において、右全額を同年度における原告の個人所得としてその収入金に計上したのは相当であり、原告の主張するごとく、右金額から昭和二七年九月一五日現在同工事について、未完成部分三六%一、八九〇、〇〇〇円相当が存するとして、それを控除することは税務会計上許されないところである。

(6)  テキスタイル銀行石工事関係

別表二によれば、同関係の収入金の原告主張額は、二、四七九、〇〇〇円で、被告主張額は、三、七〇〇、〇〇〇円であるから、原告は、被告より、一、二二一、〇〇〇円収入金を過少に計上していることになる。これは、原、被告の各主張内容を対比検討すると、原告において、未完成工事三七%分一、二二一、〇〇〇円を収入金から控除していること、反面、被告は右一、二二一、〇〇〇円を収入金から控除しなかつたことから生じていること明らかである。そこで、この点について検討すると、各成立に争いのない乙第六号、第八号証、証人三崎和雄の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証、並びに同証言を総合すると、訴外中西藤市は、昭和二七年四月一〇日訴外竹中工務店と同工事について、請負金額五、六〇〇、〇〇〇円の請負契約を締結し(なお同契約が出来高払の特約付のものであつたことは、当事者間に争がない。)その後検収確認を経て、同工務店に対し、同年五月二〇日一、〇〇〇、〇〇〇円の支払請求をなし、同年六月五日七〇〇、〇〇〇円を受け取り、同月二〇日一、〇〇〇、〇〇〇円の支払請求をなし、同年七月五日一、三〇〇、〇〇〇円を受け取り、同月二〇日一、〇〇〇、〇〇〇円の支払請求をなし、同年八月一日同額を受け取り、同月二〇日七〇〇、〇〇〇円の支払請求をなし、同年九月五日同額を受領していることが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。従つて、右三、七〇〇、〇〇〇円は全額昭和二七年度における原告の確定した収入金というべく、被告において、右金額を同年度における原告の個人所得としてその収入金に計上したのは、相当であり、原告の主張するごとく、右金額から昭和二七年九月一五日現在同工事について未完成部分三七%分一、二二一、〇〇〇円相当が存するとしてそれを控除することは、税務会計上の処理として許されない。

(7)  次に別表二の収入金明細対比表中、大和銀行片町支店石工事関係は暫く措き、その他の被告主張額が原告主張額を下廻る部分については、石工事収入金の算定法につき被告の主張する方法によつて計算すればそれぞれ被告主張の金額となることは、原告の自認するところであり、前記大和銀行片町支店石工事関係については、弁論の全趣旨により、原告が同工事を施行した事実はなく、原告の収入金は零と認める。

(期末たな卸について)

別表一によれば、期末たな卸の原告主張額は、一五四、〇九〇円で、被告主張額は二一一、三六〇円であるから、原告は被告より五七、二七〇円少く期末たな卸を計上していることになる。これは、原、被告の各主張内容を対比検討すると、原告は、訴外大林組から買受けた木材一一四、五四〇円は全部石養材に使用したから期末たな卸として在庫するものは、皆無であるとして計上しなかつたこと、反面被告は、右木材のうち二分の一相当額の五七、二七〇円が昭和二七年九月一二日現在の残品たな卸材料となつているとしてそれを計上していることから生じていること明らかである。そこで、この点について検討すると、成立に争いのない乙第九号証、証人牧野益男の証言(但し後記措信しない部分を除く。)を総合すると、原告は、昭和二七年度分所得税の更正決定に対し、訴外豊能税務署長に対し、再調査の請求をした際、その添附資料として自ら作成した乙第九号証(棚卸表)を提出したこと、右棚卸表において、原告が昭和二七年九月一日大林組から買受けた木材の中、五七、二七〇円相当を期末たな卸高として増加掲記したことが認められ、右事実によれば、原告の昭和二七年度の期末棚卸高は、被告主張の二一一、三六〇円と認めるのが相当である。尤も、前記証人牧野益男は、乙第九号証の右記載は、税務署職員に半強制的に記入させられたものであると述べているけれども、乙第九号証が再調査請求の添附資料である点に徴すると、右証言はにわかに信用することは出来ないし、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

(諸経費のうち、交際費について)

別表一によれば、交際費の原告主張額は、六四八、三一四円で、被告主張額は三四八、三一四円であるから、原告は被告より三〇〇、〇〇〇円多く交際費を計上していることになる。これは、原、被告の各主張内容を対比検討すると、原告は、被告の認める交際費三四八、三一四円の外に、昭和二七年二月福井地裁、同年三月神戸銀行船場支店、同年五月新阪神ビル、同年八月富士銀行難波支店、同年九月千代田銀行大阪支店、同月第一生命ビル各五〇、〇〇〇円宛の交際費合計三〇〇、〇〇〇円を計上していることから生じていること明らかである。そこで、此の点について検討する。

先づ、原告は右三〇〇、〇〇〇円の使途は、前記石工事について、その着工時、あるいは完成時に、時宜に応じて、慣例に従い、現場監督、人夫に祝儀として、酒、たばこを給与したもので、これらの費用は、原告の被用者を督励し、その能率を上げ、工事を促進するためのもので、総収入金額を得るためのものであると主張しているから、右三〇〇、〇〇〇円の性格は、いわゆる接待費ないし交際費であるというべきである。

ところで、所得税法上、事業者の支出するいわゆる接待費ないし交際費は同法九条一項四号、一〇条二項にいわゆる必要経費(収入金額をうるために必要な経費)になるかどうかについては、当該接待又は交際の相手方、接待又は交際の理由等から見て、もつぱら事業の遂行上の必要に基くと認められる場合に限り必要な経費になるというべきである。本件について、前記三〇〇、〇〇〇円が果して原告主張の如く、支出されたかどうかについて証人牧野益男の証言中同主張に添う部分は後記認定の諸事実と対比して考えると、たやすく信用することができない。

(イ)  同証言によれば、前記各支出について、原告の金銭出納帳にその旨の記帳がなく、又前記各支出に関する出金伝票も存しないこと。(この点は、原告の自認するところである。)

(ロ)  同証言によると、前記交際費を経費勘定に計上した会計処理方法が、昭和二七年九月一五日交際費三〇〇、〇〇〇円と一括振替処理によつて居り、その振替根拠が明確でないこと。

(ハ)  前記各支出金額がいずれも五〇、〇〇〇円という端数のない均一金額であることは、その経費としての性質上、やゝ不自然であること。

(ニ)  原告主張の神戸銀行船場支店石工事及び新阪神ビル石工事に関する交際費の各支出時期は、前出乙第五号証の一によると、いずれも、右各石工事の契約成立の前月になり、これは本件交際費が、工事に着工する際とか落成の場合に、支出されたものであるという原告の主張内容と対比すると、やゝ一致しない感があること。尤も、前記証言によると、実際の着工より、契約書の日付が遅れる場合もあるというのであるが、右各工事の場合が、それに該当したことを裏付ける証拠もないこと。

(ホ)  原告主張の富士銀行難波支店石工事及び第一生命ビル石工事に関する交際費の各支出時期は、前出乙第七号証によると、各工事の着工時にも、落成時にもあたらない中間の日時と認められ、この点も前記原告の主張内容と対比すると、矛盾すること。

そして、前記証人牧野益男の証言を措いて、他に原告の主張を認めるに足る的確な証拠がないので、結局原告の主張は、採用し難いのである。

三、結論

そうすると、原告の昭和二七年度分の事業所得の計算は、別表一の収支計算書の被告主張金額欄に記載のとおり、六、六六〇、〇八〇円となり、この金額に当事者間に争いのない給与所得金額一〇五、〇〇〇円、農業所得金額五〇、〇〇〇円を加算すると、原告の同年中の総所得金額は六、八一五、〇八〇円になる。従つて、右金額の範囲内で原告の総所得金額を二、一七九、五二七円と認定してなされた被告の審査決定には、何らの違法の点はなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用について、民訴法八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 入江菊之助 木村幸男 元吉麗子)

(別表一、二省略)

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